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NE Academy【最終回】
無線センサーネットの活用例 インフラ監視などを実現へ

この記事は、日経エレクトロニクス2014年10月13日号に掲載されたNE Academy「信頼性の高い無線センサーネット構築の勘所」を再構成したものです。禁無断転載

災害発生を事前に予測

 現在、日本国内ではゲリラ豪雨の発生や相次ぐ台風の襲来などにより災害が頻発している。大都市では集中豪雨による交通網の混乱が多発し、今年の8月には広島県で起きた土砂災害で想定外の被害が出てしまった。こうした事態を未然に防ぐには、気象状況やその影響をセンサーネットワークで検知して危険を予測するシステムが重要だ。精度の高い予測システムを構築できれば、国内の安全性の向上だけでなく他国への輸出も考えられる。

 例えば東京都内でゲリラ豪雨が発生した時に、道路の浸水を自動的に検出して交通管理に結びつけ、渋滞を回避するシステムを開発できるだろう。東京都内で浸水しやすい場所はあらかじめ分かっており、都内全域ではなく特定の箇所にだけセンサーネットワークを設ければよい。先述の上下水道の監視と異なり地面から離したところに無線ノードを置けば、通信距離も稼げる。2020年のオリンピック開催に向け、海外からの観客をもてなすためにも、こうしたシステムの構築が求められる。

  大規模な土砂災害を防止するシステムでは、住宅地近辺にある法面に、地中水量計、傾斜角度計などのセンサーを一定の間隔で設置することで、崩落の事前察知を目指す。Dust部門の技術を使えば、測りたい場所に電池だけで動作するセンサーを自由に設置できる。ネットワークマネジャーと第3世代携帯電話(3G)の通信機能を内蔵したゲートウエーを1つ設置し、その周辺に100台程度のセンサーノードを配置すれば広いエリアをカバー可能だ。この構成では、月々の通信コストを抑えた経済的なシステムを組める。こうしたシステムの支援があれば、自治体は的確な避難勧告を迅速に発することができるようになる。

老朽インフラの保守を効率化

 日本の鉄道、道路、橋などの交通インフラで今後急増するのは、保守に要するコストである。いずれも高度成長時代の1960年から1980年にかけて建設されたものが多く、建設後50年たつものが増えてきている。一方で、人の感覚に頼ってきたこれまでの検査では2012年の笹子トンネルの事故を予見できなかった。この事故を契機に、センサーを活用した監視や保守が脚光を浴びるようになった(図3)。今後顕著になる人手不足を補う上でも、センサーネットワークの活用は必至である。

 中でも橋は、交通の要所にあって崩落した場合の影響も大きいため、老朽インフラ対策の主要対象と言える。国内には長さ15m以上のものだけでも15万橋以上と非常に多く、それぞれの橋は構造や設置場所、大規模修繕の有無などに違いがあるため一品物として扱う必要がある。こうした条件の下、それぞれの橋の健康度や危険性を定量化する方策が求められている。

老朽インフラの保守を効率化

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既にセンサーネットワークを使ってこの問題を解こうとする試みはある。2007年に大規模な橋の崩落が起きた米ミネソタ州では、University of Minnesotaが、危険を察知するためのセンサーシステムの導入を目指した大規模な研究を実施。結果的に米MISTRAS Group社にシステムの開発を依頼し、AE(Acoustic Emission)法と超音波エコーによる方法が選ばれた 注1)。

 現時点で橋梁の状態を監視するシステムは有線ネットワークを使っているものがほとんどだ。振動の意味を解析するには、センサーを常時動作させてデータを取り続ける必要があり、各ノードの消費電力が大きくなるためである。振動の解釈が定まってくれば、センサーの動作を間欠的にして消費電力を減らし、電池で駆動する無線センサーネットでケーブルを一切不要にできる。将来の保守などを考えると無線の方が有利であり、今後はDust部門の製品などが採用されていくと考えている。

注1 このほか、1Hz以下とされる橋の固有振動数を正確に測定する方法などが研究されている。いずれも橋の振動をセンサーで捉え、波形の意味を解析し、交通管制に関わる機関にフィードバックするシステムになる。

メッシュネットをタグ検出に利用

 最後に、定置型の無線メッシュネットワークを使った面白い応用例のアイデアを紹介したい。BLE(Bluetooth Low Energy)を用いてビーコンを発するIDタグと組み合わせて、タグを付けたものの位置を把握するシステムである。まだアイデア段階で今後の検証が必要な方式だが、適用分野が非常に広く、今後有望な用途と考えている。

 このシステムは、メッシュネットワークを構成する各ノードにBLEの受信機能を加えることで実現できる(図4)。BLEのビーコンを発生するタグがいずれかのノードに近づくと、ノード側はタグのIDを読み、受信した電波の強度とともにネットワークマネジャーに送る。ネットワークマネジャーには、タグの周囲にある複数のノードから受信信号の強度が送られることになる。それぞれのノードの位置はあらかじめ分かっているため、受信電波の強度からタグの位置を推定できるわけだ。BLEに対応するタグは現在でも300円程度と安価であり、小型のためさまざまなものに付けることができる。倉庫や物流での荷物のトラッキング、工場や病院の資産管理など、幅広い分野で活用できそうだ。

メッシュネットをタグ検出に利用

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コンソーシアムを設立

 この連載ではDust部門の製品が用いるTSMP方式の利点と実績を強調してきた。幅広い産業で使える無線ネットワークで、TSMP方式を採用した製品は基本的には他にはないと言える。工場向けでは「ISA100.11a」規格準拠の製品があるが、大規模プラント以外の利用例はないだろう。息を吹き返しつつある日本の多くの企業が、無線ネットワークを活用して新たな製品・サービスをつくる上で、今回の連載が一助になれば幸いである。

 米Linear Technology社の日本法人リニアテクノロジーは、このたび「ダスト・コンソーシアム」を設立した。Dust部門の技術を活用する企業に、業種をまたがる連携をもたらすことを目的としている。ご興味のある方には是非ご参加頂きたい。