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NE Academy【第4回】
センサーネット設計の基本 2重化や特殊条件への対応も

この記事は、日経エレクトロニクス2014年9月29日号に掲載されたNE Academy「信頼性の高い無線センサーネット構築の勘所」を再構成したものです。禁無断転載

はじめに

 前回までに、無線ネットワークに必要な条件として、(1)設置の容易さ、(2)少量の電池で長年動作する、(3)データ欠損が生じない、(4)電波環境の変化に自動的に適応する、(5)考えられる全てのセキュリティー対策をあらかじめ組み込んでおくの5つを挙げ、これらの実現には米Linear Technology社のDust Networks部門注1) の製品などが利用するTSMP(Time Synchronized Mesh Protocol)方式が適していることを示した。今回はTSMP方式を使った場合の基本的なネットワーク設計の手順を示す。加えて、電力会社などが要求するネットワークの2重化や、鉄道会社やガス・水道会社が望む長い対象物を監視するための細長いメッシュネットワークの構成法も解説する。いずれも、Dust部門の製品「SmartMesh IP」を用いた実例に即して記述している。

注1 米Dust Networks社は、2011年に米Linear Technology社に吸収合併され、現在はLinear社の1部門になっている。

到達距離の推定が第一歩

 無線センサーネットワークの設計で最初にすべきことは、使用する無線機が現場の環境で実現できる通信到達距離の推定である。無線センサーネットの利点は測定したい対象の近くにセンサーを置けることだが、無線機の設計や置き場所によって到達距離は大きく変わる。このため、到達距離の評価にはプロトタイプの装置を用いた実地に近い環境での実測が必須になる。

 到達範囲を大きく左右する要因の1つはアンテナの性能である。トランシーバーICをアンテナと組み合わせて機器に仕上げた状態での電波の指向性と利得が重要になる。Dust部門のトランシーバーを組み込んだモジュール「LTP5901」などにはチップアンテナが付属するが、その利得は-2dBi程度と低い。表1に示すような外付けアンテナを使えば+2dBi程度の利得があるため、チップアンテナと比べて4dB有利になる。ネットワーク全体でこのアンテナを使えば送信と受信で合計8dBもの差になり、到達距離に大きく影響する。なお、アンテナには指向性があるので、メッシュネットワークを平面状に構築する場合は、水平方向には無指向性になるようアンテナを垂直に立てることを前提に機器を設計すべきである。

到達距離の推定が第一歩

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 機器の設置場所も到達距離に大きく影響する。特に重要なのが、地表からの高さと大きな金属物との距離である。地面は電波を吸収するので1m程度の高さを確保できれば到達距離は大きく伸びる。大きな金属物からの距離も同様だ。

センサーの置き場所から電力を見積もる

 実測に基づいて無線通信の到達距離を推定したら、センサー配置の計画に進む。まず、センサーを設置する場所や対象物の縮小図を用意し、ゲートウエー*1を設置する場所を決める(図1)。ゲートウエーの場所を中心として、半径が到達距離の円を描くと、その円の中に収まるモート*2はおおむね1ホップでゲートウエーと直接通信できるモートと見なせる。同様に、ゲートウエーを中心に半径が到達距離の2倍の円を描けば、先ほどの円との間のドーナツ状の領域に配置するモートはおおよそ2ホップで到達するモートと考えることができる。この図を参考にしながら、モートの配置を決めていく。

 なお、この段階で全てのモート/マネジャーに対して、少なくとも他の3つのモート/マネジャーが到達範囲に含まれていることを確認しておく必要がある。

 以上の検討を基に、Dust部門が提供するツール「SmartMesh Power and Performance Estimator」を使って、無線センサーネットワークを構成した時の消費電力や性能を見積もることができる。このツールの入力と出力の例を図2と図3に示す。各ホップで到達できるモート数のほか、実地の測定に基づくネットワークのパス安定性(平均パケット到達率)の推測値などを入力すると、モートとネットワークマネジャーの平均消費電流、センサーデータがマネジャーまで届くまでの遅延時間などを計算できる。

センサーの置き場所から電力を見積もる

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センサーの置き場所から電力を見積もる

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 ただし、このツールで算出する消費電流は無線ネットワークの構成に要する部分だけで、外付けしたセンサーやマイコンなどの駆動電流を別途加算する必要がある。こうして得られたモートの平均消費電流は、搭載する電池容量や電池交換周期の算出に利用できる。こうした検討から、モートをより精緻に設計可能になる。

*1 ゲートウエー=ネットワークマネジャーの機能に加え、上位のアプリケーションソフトウエアなどとのインターフェースとなるCPUや通信機能を備えた装置。

*2 モート(mote)=Dust Networks部門はネットワークのノードのことをこう呼ぶ。ダストが埃であるのに対し、モートは塵という意味である。

モデル環境で実測して評価

 次に、実際の設置環境のモデルとなる環境を決めてプロトタイプのセンサーノードを設置し、実際に動作させて通信の性能を実測する。性能を評価するためのツールとして使えるのが第3回で解説した健全性レポートである。全てのモートは15分に1回、健全性レポートをマネジャーに送信し、マネジャーからホストアプリケーションにも通知される。

 レポートからは、全てのモートについて周辺にある近接モートの数や近接モートとの通信パスの品質(受信信号強度、パケット到達率)などが分かる。これらを分析することでネットワークの動作が健全かどうかを判断できる。さらに、各モートの通信待ちキューにパケットが保管されたかどうかや、モートがリセットされたかどうかといった動作に関する情報も得られる。これらからはネットワークの輻輳の有無や孤立モートの有無が分かり、ネットワークが将来にわたって安定して動作できるかどうかの判断の材料となる。

 大きな問題が見つかった場合は、追加のノードを配置するといった対処を施す。こうして問題点をなくしたモデル環境での配置例をもとに、実際の運用環境での配置計画を立案する。